−あ、ちょっと待って−
彼女とつきあって半年目の夏。僕の浮気が、多分ばれた。
「多分」とつけたのは、まだ彼女に問い詰められてはいないからである。
今年の6月、学生時代の同級生と会い、ついその場のノリといきおいでやってしまった浮気。
まさに「あやまち」というやつで、どこでどう彼女にばれたかは分からない。
しかし、どうやら決定的に、ばれているようなのである。
そう、最初は、自分に後ろ暗いところがあるからだろう、と楽観的に考えていた。
手料理が異常に塩辛かったりしても、「ごめん、お塩いれすぎちゃった」と笑う彼女に、
何も負の感情なんて感じられなかったからだ。しかし、そういうことが段々増えてきて、
おかしい、と思い出した。手料理を作るたびに、砂糖と塩を入れ間違えたり、みその量
が異常に多かったりなんて、どう考えてもおかしい。浮気をする前は、彼女の料理は
おいしかったのである。
そして、僕は気づいてしまった。
「ごめん」と笑って謝る彼女の、目は全く笑っていないことに。
とりあえず、僕は自分の体のためにも、彼女に浮気を告白することにした。精神的に攻撃される
よりも、むしろ直接なじってもらった方がいいと思ったのだ。
「カラオケに行きたい」という彼女の意思を尊重して、デート先はあっさりとカラオケBOXに
決まった。彼女は、部屋に入るなり、いつもどおり僕の隣に座り、曲をさがしだした。
「あの…さ。大事な話があるんだ」
「あ、ちょっと待って。これだけ歌わせて。どうしても歌いたかったの」
「…うん」
彼女は、慣れた手つきで入力し終わり、右手でマイクを持った。そして、左手で僕の手を
握った。その手は、少し汗ばんでいて、僕は少しドキドキしてしまった。彼女は、何か僕に
伝えようとしているのだ。
流れ出した曲は、
Coccoの「カウントダウン」だった。
僕は、その歌詞を見て、氷りついた。
「あーすっきりした☆ で、話しってなあに?」
地獄とも言える長い時間の後、とても満足しきった顔で彼女は、僕にそう言った。
僕は、土下座することにした。
「すいませんでした」
僕はもう、あんな思いをするぐらいなら、一生浮気だけはしないと誓った。