−「あ、久しぶり。」−
僕が誰ともつきあえないのは、昔つきあっていた彼女が忘れられないからである。
彼女は、僕が人生ではじめて告白した人だった。高校のクラスメイトだった。
「つきあってください」という僕に、少し戸惑った顔をしながらも、頷いてくれた人。
小柄でかわいらしいタイプの女の子で、僕の後をチョコチョコとついてきて、いつも
僕のどうでもいいような話に、にこにこ笑ってつきあってくれた。彼女とつきあった2年間
は、とても幸せだった。
正直、彼女と別れた時は死のうと思った。彼女以上の人には会えない、と思っていたから。
現に、今も彼女以上の人とは出会えていない。
ずっと、忘れられない人。それが彼女だった。
そんな彼女と、2年ぶりに出会った場所は、街角のビデオ屋だった。
「…あ、久しぶり。何やってんの?」
彼女は、動揺している僕に向かって、何の迷いもなく、そう言った。
大学に入って化粧をしたのか、少し大人びた顔をしている。
僕は、彼女の変わりように驚いて、言葉が出てこなかった。
彼女は、そんな僕を見て、高校の時に見たなつかしい笑顔を浮かべた。
そして、「変わらないわね」とつぶやいた後に、僕の手に握られたビデオを指差して、
いたずらっぽい口調でこう言った。
「…そのビデオは、イマイチよ?」
彼女は、僕の知らない間に、趣味が変わっていた。
いやむしろ、僕は知らなかった。
彼女が、こういう趣味だということを。
「…さよなら」
僕は、彼女がバイバイと手をふった時に、かろうじてそう言うことができた。
その時、僕の心で、急速に「高校時代の彼女」が消えていくのが分かった。
エロビデオ屋で、エロビデオを堂々と借りる、僕の好きだった人。
僕は、今日やっと、新しい恋を見つけようと思った。
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