−1月の布教活動。−
「えーとね。一枚目は
スガシカオ『青空』」
私は、嬉々としながらCDをデッキにいれました。
「あぁ、何か映画の主題歌になったやつ?」
「そう。内容は別れ歌です。しかも、普通の別れ歌ではありません。
もう、別れてから、推定1年以上経った後の別れ歌です」
「失恋するの、遅っ!」
「4曲入ってるんだけれど、
3曲中2曲が別れて1年以上経ってからの
別れ歌。
1曲は過去の自分の過ちを悔やむ歌。もう1曲は、別れ歌
のアレンジ違い」
「…何かスガシカオは嫌なことでもあったの?」
「ちなみに3曲の題名は、『青空』『Cloudy』『オレンジ』と、空をあらわし
ています。ジャケットも表・裏・中表紙と3種類の空を配していて、超
細かいつくりね」
「ふーん」
「とりあえず、聴いてほしいのは2曲目。1曲目は、
私はあんまり好きじゃ
ない」
「いや、1曲目こそ聴かせろよ」
「まぁまぁ。そーれ、再生☆」
「…静かな曲ね。うん。いいんじゃない? 別に好きでも嫌いでもない」
「えー、この曲。1月中旬に発売されたんですが、
クリスマスソングです」
「…遅っ!」
「まぁ名曲だと思うね。聖夜に流れてくる歌を聴いて、当時つきあっていた
彼女との別れのシーンとか、自分の青さとか、苦い思いとかを思い出す、
みたいな歌ね。そんな想い出がある人には痛すぎる歌です」
「ふーん。そんな思い出ないから、どうでもいいや」
彼女は、ピッと手に持っていたリモコンの「停止」ボタンを押すと、「取り出し」
ボタンも押してしまいました。
私はめげません。
「2枚目は、
ガガガSPの『卒業』」
2枚目をデッキにいれながら、話しました。
「この曲は、歌詞を聴いてほしい。もう痛いというか、切ないというか、
『思いを伝える前にあきらめちゃう』という気持ちが全面に押し出されて
いて、聴いていると泣けてくる。どうか、歌詞を聴いて」
「ふーん。分かった」
彼女がうなずいたのを見て、私は本体の再生ボタンを押しました。
「…うるさい」
数秒聴いただけで、彼女はリモコンの停止ボタンを押しやがりました。
「いや、歌詞を聴けよ!」
「歌っていうのは曲も含めて歌でしょ。こんなうるさいのは好みじゃない」
「っつーか、イントロで止めるなよ!」
私は、もう一度再生ボタンを押しました。
今度は歌に入りました。
『さよならーさよならーさよならー』
「
やっぱり、やかましい」
彼女は、はじめの一節だけ聴いて、停止ボタンを押しやがりました。
「かっこいいんだよ? 歌詞はフォークソングみたいなくせに、曲はめちゃ
めちゃパンクなんだよ? がなっている歌なのに、泣けてくるんだよ??」
「うるさい曲を聴くと頭が痛くなるのでいいです」
彼女は、無情にも取り出しボタンを押してしまいやがりました。
私はめげません。
「3枚目は、
キンモクセイの『二人のアカボシ』です」
「あ、何か最近オリコンで上位にいるよね。聴いたことない人達だけど」
「うん。最近デビューしたらしいよ。70年代テイストあふれる歌です」
「へー」
私は再生ボタンを押しました。
「…イントロでいきなり泣けそうな曲だね。懐かしさで」
「冬の夜、耳も凍りつきそうなほど寒いのに、なぜかわざわざ川辺でデート
しているカップルに聴かせてやりたい歌だね」
「うん。これは好き。歌詞カード、見せて?」
これはいける、と私はさらに言葉を重ねました。
「この人たちは、絶対これからブレイクして、音楽番組でまくると思うよ。
キロロのように」
「ふーん。…また別れの歌だね。何? そういう曲が好きなの?」
「いや、別にそういうわけでは…」
「
彼氏と別れたばっかりだから」
「もうニヶ月以上たったことを持ち出すなよ! 偶然だよ!」
彼女は、一通り曲を聴くと、停止ボタンを押しました。
「
いい曲だけど、レンタルでいいかな」
私はめげません。
「4枚目は
中村一義の『キャノンボール』」
「ふーん。
また別れソング?」
「(ムカッ) …まぁ聴け」
私は、心に浮かんだ100の暴言を押し殺して、再生ボタンを押しました。
「…これ、日産の車のCMの歌じゃん。『そこに愛がーあるゆえーにー』って」
しばらく黙って曲を聴いていた彼女は、そうつぶやきました。
「そう。『4500円』って言っているあの人の歌だよ」
「ふーん。けっこう好きなんだよね、あのCM」
「元々この人は、一人で活動していたんだけれど、今回から『100式』って
いうバンドのメンバーになったんだわ。その第一弾シングル」
「じゃぁ、新生『中村一義』だ」
「そう。しかも二曲目は、デビューシングルのライブバージョン。一人で作って
出したデビューシングル『犬と猫』なのに、バンドで演奏するために作られた
曲って感じで、超納得の出来」
「ふーん」
「しかも、パソコン持っている人には二度おいしい。若手カメラマンとして、
超有名な佐内正史というカメラマンの撮り下ろしフォトだの、キャノンボール
特製スクリーンセイバーだの、未公開映像だの、ライブチケット優先予約
だの、一杯詰まって、他のCDマキシシングルと変わらないお値段」
「うわ、お得☆」
「でしょでしょ♪ どうですか、奥さん。一枚買いませんか」
「うん。これは買ってもいいかな」
彼女は、曲を一通り聴いて、停止ボタンを押しました。
今回の布教結果。
4戦、1勝1引き分け2敗。
来月こそは、全勝します。アイルビーバーッグ!